今回は向かい風強いやつVS追い風強いやつという話題で話をしていきたいと思います! 陸上競技者の皆さんは、競技中の「風」の影響を強く感じたことはあるでしょうか? 流石に風速5mの向かい風など吹いたらどうしようもないと思いますが、公式タイムに認定されるような風速2m以内の風ならいかがでしょうか?「そんなに変わらないよ!」と思う方もいれば、「少し向かっただけでも気が萎える、、、」と感じてしまう人もいるでしょう! 特に100m,200m,のような、周回しないレースでは風が与える影響をとても強く感じる人たちも少なくないでしょう。そこで、今回は表題のテーマ「風を受ける影響というのは個人差があるのでは?」という疑問について話していきたいと思います!!目次風速にまつわる色々な話。風が与えるエネルギーと、運動エネルギー①風速にまつわる色々な話。ここでは、風についてお話しする前に、まずは陸上競技における「風」に関する様々な豆知識について触れていきたいと思います。風速の計測方法 走りのタイムにも影響を与える「風速」ですが、一体どのように計測されているのでしょう? またも出典ですが、陸上のハンドブックだと、下記のように決められています。”風速を計測する時間は、スターターの信号器の発射(閃光/煙) からつぎの通りとする。60m:5秒間100m:10秒間100mハードル:13秒間110mハードル:13秒間200m:先頭の走者が直走路に入ったときから10秒間計る。〔国内〕 直走路に入る位置に旗を立てるなど適切な方法で表示する。風向風速計で秒速何メートルかを読みとり、小数第2位が0でない限り、秒速 1m の 10 分の 1 の単位まで繰り上げる。【例】+ 2.03m → + 2.1m– 2.03m → – 2.0m”これはもしかしたら有名な話かもしれませんね。実は、陸上の風速は、測る秒数、タイミング、位置が細かく決められています。特に、風速の計測時間及び計測タイミングは極めて限定的なんですよね。これが実際に体感している風速とどの程度差が生まれるのかは正確にはわかりませんが、これによって数値と体感のズレが起きてくることも少なくないでしょう。風が走りに与える様々な影響 まずは、走りの基本的なことから話していきたいと思います。まず、陸上競技において風とは大きく分けて2つに分類されます。1つ目は、自身の進行方向と同じ方向に吹く「追風」。2つ目は、自身の進行方向とは反対の方向に吹く「向風」です。(今回は、自身の進行方向に対する風の向きのみを考えます。つまり、真横からの風は追い風でも向かい風でもありません。) レース中に向かい風が吹くと、大気が疾走者を進行方向の真逆へ押し返すため、タイムが遅くなります。逆に、追い風が吹くと大気が疾走者を進行方向へと押し出すため、タイムが速くなると言われています。いくつかの記事にも紹介されていましたが、アメリカのロヨラ・メリーマウント大学のJonas Mureika氏や西ドイツの研究者ハイデンストレム氏が、短距離走と風の影響について研究をしており、その研究結果によると、追風及び向風が及ぼす影響は下記の通りです。(出典:http://urakanama.web.fc2.com/wind.html、http://arunners.org/wind/)追風1m: +0.085秒向風1m: -0,094秒 概ねプラスマイナス0.1秒といった感じです。(少し追い風の方が影響が少ない感じですね)皆さんはこれをみて驚かれるでしょうか?それともこんなものだと経験の通りと感じたでしょうか? とりわけ追風の影響は、競技者にとっても大きなものとなるでしょう。追い風が強く吹くことによって、スプリンターが通常発揮できるパフォーマンスを越えたタイムを連発できてしまうことが多々あります。そのため、追い風は上記のルールに則った方法で計測した際に、風速2mを越えたものに関しては「参考記録」となります。参考記録となった記録は、公式の記録として認定されません。②風が与えるエネルギーと、運動エネルギー 先ほど、風が疾走速度に及ぼす影響を、タイムを使って説明してきました。それでは、より物理学的に突っ込んだ話をしていきます。そもそも、追風、向風が吹くとなぜ疾走速度に影響が出るのでしょうか。それは、疾走者が自分の身体を前に動かすための運動エネルギーに対して(以下、推進エネルギーと呼びます)、風の運動エネルギーが干渉し、疾走者の推進エネルギーを増減させるからです。力のベクトルの方向、大きさに対して、風が身体に与えるベクトルの方向、向きを合算することで、自身の推進エネルギーにどのくらい影響があるのか見ることができます。②-1.運動エネルギーと風のエネルギーの求め方 みなさん、今回は少し難しい話をしています。ここからが本番なので集中して聞いてくださいね! 突然ですが、みなさんの周りには、やけに向かい風に強い選手っていませんでしたか? 向かい風なのにタイムがあまり変わらない人、僕の周りにもちらほらいました。笑 彼らはなぜ向かい風の影響をより受けにくいのでしょうか。そのヒントは、先ほど解説していた運動エネルギーにヒントがあります!結論から言ってしまえば、風の影響力は、下記の式で求めることができます。風の影響=自身の推進力(運動エネルギー)+風の運動エネルギーつまり、向風、追風の影響は下記の式で求められるわけです。向風の影響=自身の推進力(運動エネルギー)-風の運動エネルギー追風の影響=自身の推進力(運動エネルギー)+風の運動エネルギー 要するに、風の運動エネルギー+自分の運動エネルギーで、エネルギーの相対的な変化量が小さければ小さいほど、風の影響を受けづらいということです!この話は少し複雑なので、あとで説明します! ではそもそも、こちらで何度も説明している、運動エネルギーとは一体どのようなエネルギーのことなのでしょうか?②-2.運動エネルギーとは??みなさん、運動エネルギーをご存知でしょうか。運動エネルギーとは、動いている物体が別の物体に衝突した際に、その物体を変形させる力のことを言います。 こういうと難しいように聞こえますが、走りの場合は単純です。ラグビーのタックルをイメージしてみてください。タックルして選手を吹き飛ばす力、あれが運動エネルギーです。運動エネルギーには個人差があり、下記の変数で決定されています。【運動エネルギーの式】K=1/2mv二乗K=力の大きさ(ジュールで表されます)m=物体の重さV=物体の速さこれらの変数に数字を当て込んで行くと、おおよその運動エネルギーを算出することができます。例えば、体重62kg、トップスピード10m/sで走る人の運動エネルギーは、3100J=316.112kgとなります!この時は、K=3100Jm=62kgv=10m/sとなります。・・・何言ってるか全然わからん、、、という人でも安心してください!この言葉、ぶっちゃけ覚えていなくて全然大丈夫です!(まあ、受験で使うから覚えおいて欲しいけど、、、、笑)要するに、ざっくりとこのような仕組みがあるんだなということを覚えておいていて欲しいです!下記2点だけ意識して覚えておいてください。重ければ重いほど運動エネルギーが大きい速ければ速いほど、運動エネルギーが大きいこれだけ覚えておけばオッケーです!想像してみてください。自分に向かって時速40kmで野球ボールが飛んできたとします。ただの野球ボールだったら大したことないですよね。キャッチすればいいだけなので。なぜなら、一般的な硬式野球M号球の重さは138g。よって時速40kmで飛んだとしても、K=138g×40km/h2乗であり、この場合K=8.519Jとなり、8Jの運動エネルギーしか持っていないためです。これなら、飛んできたとしてもキャッチしたり、最悪ぶつかってしまっても、当たりどころが相当悪くない限りはそこまで大惨事にはならないでしょう。 しかし、もしこれが自動車(約1トン)、もっと言えばダンプカー(約10トン)とかが40kmで向かってきたらどうでしょう?この場合、速度が同じだったとしても、重さが何百倍も大きくなるため、運動エネルギーが60,000Jや600,000Jとなり、ぶつかったら大惨事になりますね。 逆に言えば、これだけの重さの物を40km進めるだけの「推進エネルギーがある」と言い換えることもできます。すなわち、推進力=エネルギーということができます。 先ほどの例とは逆に、重さ138gの野球ボールだったとしても、時速300kmで飛んできたらどうですか??これはこれでひとたまりもないですよね。時速300kmのダンプカーだったら?もっと悲惨ですね。 ここではいちいち計算はしませんが、物体の重量が重ければ重いほど、また物体の速度が速ければ速いほど運動エネルギーは大きくなります。これだけわかっていれば問題ないです!!ちなみに、こちらの式の計算ですが、少し自信がない、、、難しいかも、、、と思っている方はいらっしゃいませんか?安心してください。僕も計算してはいません。笑計算は得意な機械に任せましょう!こちらに、運動エネルギーを自動算出してくれるサイトがあるので、是非興味のある人はチェックしてみてください。http://storagebox.xxxxxxxx.jp/tools/ken_calc.html②-3.風のもつエネルギーの求め方 次に、風のもつエネルギーの求め方について解説していきます。上記で述べたような運動エネルギーに対して、風がどの程度のエネルギーで干渉しているのかを知ることができれば、自分の走りのパフォーマンスに対して、風がどの程度影響を持っているかを知ることができます。風のもつエネルギーは、「風荷重計算」という方法で求めることができます。風荷重の計算式は、下記のようになります。W=1/2ρVv^2CAW=風荷重p=空気の密度v=設計速度(m/s)C=抗力係数A=部材の投影断面積 (m2)なんか、、、めちゃくちゃ難しい式ですよね、、、笑何が起きてるかはぶっちゃけ覚えなくて大丈夫です!ただ、風のもつエネルギーというのは、上記のような変数の変化によって変わるということを覚えておいてください!そもそもの風速空気の密度(標高などによって変化)風を受ける面の広さ、材質これらによって変化します。例えばここで、身長170cm、体重62kg、体表面積1.73cm2(こちらの一覧表で求めることができます)の選手が、風速2mで受ける風からのエネルギーは下記です。※今回風を受ける体表面積は、身体の半分(前から風を受けるか、後ろから風を受けるか)なので、体表面積の半分の0.86m2を想定W=1/21.2052^22.30.86 = 4.767 Nすなわち、上記の選手は風速2mの風を受けることで、約4.8Nの力を風から受けることになるのです。※こちらの数値を導き出すためには様々な仮定が前提となっているため、必ずしも正しい数値とは限りません。細かい前提を確認したい方は、下記の計算ページの条件をご確認ください。http://yanban.sakura.ne.jp/cgi-bin/con_kazede.cgiつまり、上記の選手が、風速2mの中で秒速10Mで走っているとき、3100Jのエネルギーに対して、追い風の4.8Nが加算されるのか、向かい風で4.8N減算されるのかによって、推進エネルギーが増減し、走りのスピードが速くなったり遅くなったりするわけです!!③.追風強い人vs向風強い人 それでは結局、「追風強い人・向風強い人」とは結局どのような人たちのことなのでしょう?これは、上記で紹介した計算を用いることで明らかになります。3-1.追風強い人、向風強い人の特徴 分かりやすいように、結論から言ってしまうと、それぞれの性質をもつ選手の特徴は下記です。・追風強い人⇨相対的に体重が軽く速く走れる選手・向風強い人⇨相対的に体重が重く速く走れる選手これは一体どういうことでしょうか。これはすなわち、この記事の冒頭でも述べていた、「風の運動エネルギー+自分の運動エネルギーで、エネルギーの相対的な変化量が小さければ小さいほど、風の影響を受けづらい」という事です。例えばこういう事です。追風強い選手をAさん向風強い選手をBさんとします。Aさん、Bさんのステータス、は下記の通りです。Aさん身長175cm体重58kg最高疾走速度 11m/sBさん身長178cm体重70kg最高疾走速度 11m/sそれでは、それぞれの選手に風速2mの追風、向風をそれぞれに与えてみて、実験してみましょう!Aさんの推進力=1/2×58kg×11m/s2乗=3509JBさんの推進力=1/2×70kg×11m/s2乗=4235JAさんの受ける風荷重=1/21.2052^22.30.855= 4.739 NBさんの受ける風荷重=1/21.2052^22.30.935= 5.183 NJ/m=Nなので、下記のように算出されます。いかがでしょうか?非常に若干ですが、Aさんの方が、追風時の変化量が大きく(追風の影響を受けやすい)、Bさんの方が、向風時の変化量が小さい(向風の影響を受けにくい)ということがわかったと思います!!これが要するに、追風が強い人VS向風が強い人の正体です!!!④まとめ・・・待てよ?と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。この差、極めて微量中の微量ですよね笑 おそらくですが、追風、向風が強い弱いには、これらの要素だけでなく、メンタルや技術面の問題(例えば、下り坂の方が得意、上り坂の方が得意な走り方など)も要素としては大きく絡んで来るのかなと私は考えております!(まだこれに関しては検証できておりません。後日、これに関連した記事がかけたら嬉しいです!) もちろん、1000分の1秒を競う競技ですから、この小さな差は大きな差となることは事実であると私は考えております。 皆さんも自分の体重や最高速度などを理解した上で、風とはうまく付き合って行くことを強くおすすめします!それが結果的に風などの不確実な要素を乗り越えて自己ベストを出していくきっかけになることでしょう! それでは、また会いましょう!!