「足が速くなる方法」や「足が速くなるコツ」、「短距離走 コツ」といった、足を速くするための方法論を知りたい方は陸上選手に限らず、短距離走において、多いはず。実際に「足が速くなる方法」と検索してみると、つま先で走るとか腿を高く上げるとか腕振りがとか出てきますが、、、、いや変わらんし。と思っている方多いんじゃないですかね。そりゃそうです。方法論なんて、個人の現状に合った最適解かどうかなんてわからないし、その方法がどのくらい効果があるのかも判断つきません。ではどうするか。「そもそも足が速くなるってなんだ?」「なんで足が速くなるの??」という問いに答えることができれば、自分の現状と照らし合わせて「足が速くなる方法」が見つけられそうですよね。この記事では、「足が速くなる方法」ではなく、「足が速くなる仕組み」について考えていきたいと思います。目次「足が速くなる方法」と「足が速くなる仕組み」の違い「足が速くなる」とは何か?「足が速くなる」仕組み上方向と前方向の力って何?まとめ① 「足が速くなる方法」と「足が速くなる仕組み」の違いまず「方法」と「仕組み」の違いをカンタンに押さえときましょう。・方法→目的を達成するための手段、手法、施策。・仕組み→目的を達成する原理、構造。定義だけだとアレなので、、、、具体例で考えてみましょう。方法論日本代表の、「寝る前のホットミルク」に例えて方法と仕組みの違いを解説していきます。夜寝られないとき「寝れる方法」とか「眠れる方法」とかで検索しますよね。そうすると大体「ホットミルクを飲む」とかが大体ヒットする。でも、寝る直前にホットミルクを飲んでも寝られるわけないんですよ。なぜでしょうか。「寝られる仕組み」を考えてみましょう。人間は体の表面の温度が高まって↓体内温度が下がるとき(熱放散)↓に副交感神経が優位になり↓リラックスモードで眠気が出てくる。(脳内のシナプスの動きなども関係ありますがわかりやすくするため排除)これが「寝られる仕組み」です。つまり、熱放射が始まるタイミングを考慮したタイミングに温かいミルクを飲まなければ効果がないんですね。逆に言えば、体温が下がるタイミングを見計らって温かいミルクを飲めば、すぐ眠れるわけです。物事が起きる仕組みを考えれば、効果的なアプローチ方法もわかるし、知ってる方法も適切に扱うことができるんですね。ということで、、、、「足が速くなる方法」ではなく、「足が速くなる仕組み」を考えていきましょう!!②「足が速くなる」とは何か?陸上の短距離を再解釈すると、「人間という物体を誰が進行方向に一番速く進められるか」を競うゲームみたいなものと考えることができます。中学校の物理とかでやるかもしれませんが、物体を動かすには「力」というものが必要になります。短距離走の場合、進行方向への力が強ければ強いほど、速度が速まり、ゴールにより速くたどり着くことができます。つまり、足が速くなるためには、進行方向への力を強めることが必須条件になります。しかしながら、地球上には様々な力が働いています。例えば、重力や空気抵抗力など。。。進む力が空気抵抗力より弱かったら、そもそも前に進みませんし、重力が存在するので、上方向の力がなければ真っ直ぐ走ることはできません。「足が速くなる」とは、存在する様々な力に抵抗し、進行方向の力を強めることなのです。③「足が速くなる」仕組み「足が速くなる」とは、「存在する様々な力を凌駕して、進行方向の力を強めること」というゴールイメージが固まりました。次は、「足が速くなる仕組み」について考えていきます。進行方向の力の正体を暴いてやりましょう。まず、力が加わる始点についてです。力が働いている以上、力が加えられているスタートがあるはずです。当たり前のことですが、私達人間は空を飛べませんので、空中時に進行方向に進めるような力を生み出すことはできません。このことから、地面と足が触れている時間に力を生み出していることがわかります。つまり、進行方向への力が生まれているのは地面を蹴る瞬間となります。当たり前ですかね。笑では蹴る瞬間についてもっと詳しく見ていきましょう。蹴る力というのは、短距離など走ったことがある人はわかると思いますが、大体、斜め下方向に力を加えている感覚ではありませんか?そして、地面を蹴るその斜め下の力に対する「抗力」が働き、斜め上方向の力をもらっているんです。この斜め上方向の地面を蹴る力の抗力が、重力によって前方向にベクトルが変わり、前に進んでいることになります。この地面からの抗力が強ければ強いほど「足が速くなる」というわけです。上図は、元世界記録保持者のアサファ・パウエルと、朝原宣治選手の抗力の差を示したものです。パウエル選手の抗力がとんでもなく大きいことがわかります。抗力の大きさが速さに関係していることがわかります。この斜め上向きの抗力についてさらに分解していきましょう。実は、この斜め上方向の抗力は、上方向の力と前方向の力の2つの力の合成で成り立っています。「Factors influencing performance of elite sprinters: focusing on the acceleration phase of running」という論文でも水平方向の力(前方向の力)と鉛直方向の力(上方向の力)が働いていることがわかっています。(下図)そして、やはり上方向への力と、前方向への力も両方とも力が大きい選手ほど足が速いことも同時にわかりますね。(上図)(Fast群は世界陸上決勝レベル選手、Slow群は日本国内トップ選手)どうやら、進む力の正体はこれのようです。ここまでの話をまとめてみましょう。「足が速くなる」とは、進行方向への力が強いこと⇓でも、重力があるから斜め上への力がないと進行方向の力にならない⇓斜め上への力は僕らが地面を蹴った反動の抗力である。⇓分解すると、上方向の力(反発力)と前方向の力(推進力)の両方が必要であり、その力が大きければ大きいほど「足が速くなる」。式にすると、、、、進む力→ = ↗抗力 + ↓重力 + ←空気抵抗力抗力↗ = ↑反発力 + →推進力④上方向と前方向の力って何?進行方向の力には「抗力」が必要であり、抗力は上方向の力と前方向の力の合成でできていて、上×前の力の両方を大きくすることが、「足が速くなる」仕組みであることがわかりました。皆さんの大好きな「足が速くなる方法」も、もう少しで見えて来ます、、、!では、それぞれ上方向の力と前方向の力とは何なのか。走りの動きでいうと何に当たるのか解説していきます。上方向の力とは何か?上方向の力は陸上用語で「軸」や「反発」と呼ばれる概念に近いと考えています。上方向の力を高めるには、骨盤を正しい位置に保ち、重力の力をしっかりと地面に伝え、上方向の「反発力」を受けることが重要になります。上図では、骨盤姿勢の正しい例(左)と、骨盤姿勢の歪んだ例(右)を絵にしたものです。骨盤姿勢の歪んだ例(右)は、体の軸を真っ直ぐに保てておらず、重力が加わると右側に崩れてしまいそうですね。上方向の力が重力に及ばず、「反発力」を得られていない典型的な例です。一方で、骨盤姿勢の正しい例(左)では、体の軸を真っ直ぐに保つ事ができていて、重力を真っ直ぐ地面に加えていますね。上方向の力(反発力)が重力と相反して体の軸を保っている良い例です。ちなみに、骨盤姿勢を保つには、中殿筋という筋肉の作用が不可欠です。中殿筋を鍛えると一生歩ける体になるといった話もよく出るくらい重要な筋肉となります。このように、中殿筋を機能させ、上半身と下半身の繋ぎ目である骨盤姿勢を真っ直ぐに保つことが、上方向の力(反発力)を生み出す動きとなります。「反発」について詳しく知りたい方は、反発の原理についてこちらの記事にまとまっているので見てみてください。↓↓↓↓「反発」をもらう走り方の原理とコツ〜陸上短距離選手向け「反発」をもらうためのドリルや練習トレーニング方法はこちら↓↓↓↓反発を受ける走り方〜練習トレーニングとドリル編前方向の力とは何か次に前方向の力とは何なのか。走りの動きでは何に当たるのか解説していきます。結論から言うと、大殿筋の収縮と股関節の伸展が同時に起きる下半身の伸展動作です。「ハムのパワーじゃないの??」と思われた方は多いのではないでしょうか。水平方向の力を生み出す主要因は、ハムストリングの収縮ではなく、大殿筋の収縮と股関節の伸展のほうが大きかったことがわかっているんです。2001年の研究では、「股関節伸展トルクの最大値は,接地期における膝関節伸展トルク の約1.5倍にあたる」(Johnson M.D.Buckley J.G. 『Muscle power patterns in the mid-acceleration phase of sprinting』2001)と表記されていて、ハムと大殿筋と股関節の機能では、1.5倍もパワーが異なることがわかっています。(トルク→パワーって考えていいです)また、2005年の研究では、股関節伸展速度が加速局面の力積の水平成分の大きさに関連があることが報告されていて、(股関節伸展の動き=水平(前方向の力))(Hunter J.P., Marshall R.N., McNair P.J. Relationships between ground reaction force impulse and kinematics of sprint-running acceleration. J. Appl. Biomech., 21(1): 31-43. 2005 )(Relationship between sprint running movement and velocity at fullspeed phase during a 100 m race 1998)大殿筋の収縮と股関節の伸展の動きの角度、速度が疾走時のスピードに相関があることが研究でわかっています。ちなみにですが、短距離走で地上最速と謳われるチーターの下半身の動きをみると伸展動作がめちゃくちゃわかりやすいです。大殿筋を引っ張るように股関節をぐっと縮める屈曲の動きから(上左図)、一気に大殿筋を縮め、股関節をぐいっと伸展させています。(上右図)股関節を縮める屈曲の動きから、大殿筋の収縮と股関節の伸展によって体が大きく前に進んでいることがわかります。この伸展動作が短距離走における前方向の力の正体であり、「足が速くなる」ために最も重要な動きです。以上のことから、大臀筋の収縮と股関節の伸展の動きが主要因として、前方向の力が生み出されていることがわかりました。以上のことから、上方向の力→骨盤姿勢を保つ反発の動き前方向の力→大殿筋の収縮と股関節の伸展を同時に行う伸展の動きということがわかり、進む力を生み出しているのはこの反発の動きと、伸展の動きであると結論づけることができます=反発と伸展理論⑤まとめいかがでしたでしょうか。「足が速くなる」には反発の動きと伸展の動きが必要であることが解明できました。「足が速くなる」仕組みがこの記事で理解した上で、「足が速くなる方法」を考えたり調べたりすると今までとは練習の成果が全く変わってくると思います。SmartDashでは、この反発と伸展理論を軸とした「足が速くなる方法」を今後とも記事にしていきます!!この記事の要約テーマ「足が速くなる方法」ではなく、「足が速くなる仕組み」とは?結論反発と伸展の動きにより生み出される抗力、重力、空気抵抗力を合成した進行方向への進む力が強ければ強いほど足が速くなる仕組み=反発と伸展理論と呼ぶ反発と伸展理論公式進む力→ = ↗抗力 + ↓重力 + ←空気抵抗力抗力↗ = ↑反発力 + →伸展力*矢印は力のベクトルを示しています。思考の流れ↓①「足が速くなる」とは何か?→短距離のタイムが速い=進行方向に働いた力が強い↓②「足が速くなる」仕組み→進行方向の力は蹴る力に対する斜め上方向の抗力と下向きの重力と後ろ向きの空気抵抗力の合成でできている→蹴る力に対する抗力が強ければ強いほど足が速くなる→抗力は上方向の力と前方向の力の合成でできている。↓③上方向と前方向の力って何?→上方向の力(反発力)=中殿筋を中心とした骨盤姿勢を保つ動き(反発動作)→前方向の力(推進力)=大殿筋の収縮と股関節の伸展の動き(伸展動作)→反発と伸展理論と呼ぶ。